ブログ

フェレットのインスリノーマ

 フェレットのインスリノーマは膵臓の腫瘍が原因となる緊急疾患で、進行すると重度の低血糖を呈し、死亡することも少なくありません。
 ここではフェレットのインスリノーマの徴候や治療法などを詳しく解説していきます。

原因
 血糖値の維持にはたらくホルモンであるインスリンは膵臓のβ細胞から分泌され、正常では血中の血糖値に対応して、血糖値を下げる方向にはたらきます。フェレットのインスリノーマは膵臓の腫瘍であり、インスリンの過剰分泌に起因して低血糖を引き起こします。なお膵臓に腫瘍が発生する原因はまだ詳しく分かっていません。 
疫学
主に中高齢(4-6歳以降)に好発します。性別による発生率には大きな違いは無いとされています。
 
症状
 フェレットのインスリノーマの症状は主に低血糖に起因したものであり、以下のような徴候が見られることが多いです。
特に前三者についてはWhippleの三徴と称され、低血糖を疑います。

①空腹時の意識消失性発作
②発作時低血糖
③糖の補給による回復
他にも、体重減少や後肢麻痺、流涎、元気消失が挙げられます。
さらに長時間の低血糖は全身の諸臓器にも影響を及ぼし、それらの機能不全を引き起こします。また血糖値の急激な低下はアドレナリンの作用による交感神経の緊張を亢進し、頻脈や低体温、過敏症などを起こすことがあります。

以下の項目を自宅で確認してみましょう。
□いつも遊んでいる時間に起きてこない。
□よだれ、鼻水が良く出ている。
□ふるえ(発作、けいれん)がみられる。
□運動能力が落ちた。
□ぼんやりしている。 
これらの項目にチェックが付いた場合は動物病院で検診を受けましょう。

検査
 フェレットのインスリノーマは上記の特徴的な徴候と合わせて、主に血液検査で鑑別します。特徴的な項目としては、血糖値や血中インスリン濃度の測定があります。
 
血糖値測定
 フェレットの正常の血糖値は90-100mg/dL程度とされており、70mg/dL (4-6時間絶食時)を下回るようであればインスリノーマを疑います。ただし低血糖になる原因としては種々の腫瘍性疾患や肝不全、副腎機能低下症なども挙げられるため、血液検査の結果や他の検査方法と合わせて鑑別します。
 低血糖に対する代償機能がはたらいた場合にはインスリノーマでも血糖値は基準値内にあることや、慢性的な低血糖により重度の低血糖でも徴候を示していない場合もあり、他の検査項目や一般状態を考慮する必要があります。なお血糖値が20-40mg/dLの場合は昏睡状態となっていることが多いです。
 
血中インスリン濃度
 上記の低血糖と併せて高インスリンがみられれば、インスリンの過剰分泌による低血糖状態の可能性が高く、インスリノーマを強く疑います。なお、この検査では偽陰性(実際は陽性だが、検査数値上では陰性となるもの)も考慮する必要があり、臨床症状や他の検査を踏まえたうえで総合的に判断する必要があります。
 
血液生化学検査
 インスリノーマに罹患した個体では肝数値の上昇が認められることがあります。インスリンは全身の筋肉や脂肪組織においては各細胞への糖の取り込みと、その取り込まれた糖の貯蔵体(グリコーゲン)への変換にはたらき血糖値を下げる方向にはたらくほか、タンパク質や脂肪の合成を促進します。肝臓においても脂肪の合成を促進する方向にはたらき、脂肪肝(肝リピドーシス)となることがあります。これにより肝機能の低下が生じることで、肝数値の上昇が認められることがあります。または肝臓への転移により肝機能の低下が生じている可能性もあります。
 
 その他の検査としてはレントゲン検査や超音波検査が挙げられます。レントゲン検査では著変を認めない事も多いが、超音波検査においては膵臓や周囲リンパ節の病変や肝臓や脾臓への転移性結節を確認できることがあります。また肝臓への転移や前述の脂肪肝の確認も行います。なお、インスリノーマを特異的に判断するのは難しいことが多く、その場合は膵臓の病理検査によって確定診断を行います。
 
治療
 治療の方針としては、主に「完治」よりも「状態維持」を目指します。急激な低血糖状態となることが生体の維持に関わる為、この低血糖状態にならないように内科療法または補助的に外科療法を行うことが多いです。
 明らかな腫瘤を認めた場合や膵臓の部分摘出を行うことによる治療効果を認めることもありますが、残った腫瘤が拡大していき再発することが多いです。そのため手術を選択するかどうかは飼い主と獣医師でよく相談したうえで実施します。
 
外科療法
 インスリノーマは膵臓の腫瘍に起因するため、外科的に腫瘤切除や膵臓を部分的に摘出することは理論的には効果的であると言えます。なお、外科的に切除した後には残存した腫瘤が拡大することも少なくなく、繰り返しの処置が必要となることが多いです。内科的な治療と併用することで治療効果が高まるという報告もあります。
 
内科療法
 内科的な治療としては、食餌療法や薬による維持があります。
 
食餌療法
 血糖値は主に炭水化物の多い食餌や、一度に多くの食餌を与えることで上昇しやすいです。そのため、食餌を小分けにして与えることや、炭水化物の少ない食餌を選択することが重要です。なお肉食傾向の強いキャットフードやフェレット専用フードは高タンパクに設計されています。
 
投薬
 プレドニゾロン(ステロイド)による血糖値の上昇やジアゾキシド(利尿薬の一種)によるインスリンの分泌抑制による治療が挙げられます。
 
プレドニゾロン
 プレドニゾロンは全身の細胞への糖の取り込みを抑制するうえ、肝臓における糖新生(グリコーゲン→グルコース)を促進することで血糖値を上昇させます。インスリノーマに対するプレドニゾロンの投与は完治ではなく、あくまで血糖値の低下を抑える目的のため生涯服用する必要があります。プレドニゾロンは長期服用による副作用が発現することがあり、これを理解したうえで投薬に進む必要がある。
 主な副作用には以下のようなものがあります。
 
・胃腸障害
 :胃粘膜の保護機能の低下および胃酸分泌促進作用による(諸説あり)。
・脱毛などの皮膚症状
 :皮膚のターンオーバーや被毛の毛周期を抑えることによる。皮膚の免疫機構が弱ることで寄生虫や細菌等に感染しやすくなる。
・脂肪の蓄積、筋肉の萎縮、肝酵素上昇
 :肝臓や全身の筋肉における脂肪の同化、タンパクの異化作用による。
・心不全傾向
 :体液保持および、それによって心臓に送り込まれる血液量の増加などによる。
 
ジアゾキシド
 プレドニゾロンと異なり、インスリンの分泌を抑えることにより血糖値の低下を抑制します。主にプレドニゾロンの治療反応などを見たうえで開始します。
 なお、食欲不振や嘔吐などの消化器障害、貧血などの副作用も認められるため、プレドニゾロンと同様に定期的なモニタリングが必要です。
 
低血糖発作時には…
 安静時の食餌管理としては炭水化物の少ない食餌を心掛けますが、上記の低血糖徴候がみられた時には糖の補充を行います。なお、過剰な糖の補充を行うと低血糖を助長する可能性がある為、少量ずつの投与や嚥下可能な状態の時は同時にフードも給餌します。なお、重度の神経症状に進行した場合では、糖に対する反応が認められない事があります。
 
まとめ 中高齢のフェレットに好発するインスリノーマは低血糖を引き起こし、重度となると全身に影響を及ぼします。前述したような特徴的な徴候はありますが、明らかな徴候を見せない場合も多いです。特に中高齢に差し掛かったフェレットは自宅での行動の変化をよく観察したうえで、定期的な検診を受けることが重要です。
 ご自宅のフェレットの体調等でご心配なことがあれば、何でもご相談ください。

過去の記事

全て見る